法華経と申すは随自意と申して仏の御心をとかせ給ふ。仏の御心はよき心なるゆへに、たといしらざる人も此の経をよみたてまつれば利益はかりなし。麻の中のよもぎ・つゝの中のくちなは ・よき人にむつぶもの、なにとなけれども心もふるまひも言もなをしくなるなり。法華経もかくのごとし。なにとなけれどもこの経を信じぬる人をば仏のよき物とをぼすなり。 (通解) 法華経という経典は随自意といって仏の心を説かれたものである。仏の心は正しい心なので、たとえ経典の内容や意味を知らない人でも、この法華経を読誦すれば利益は無量である。例えば沢山の麻の中に生えた蓬や、筒の中に入った蛇はまっすぐに伸びる。そのように正しい心を持つ人と親しくなると、これといったことがなくても自然に心も御振る舞いも言葉も正直になるようなものである。法華経もこれと全く同じで、これといったことがなくても、この経を信じている人を仏は善良な人と思うのである。 |